甘露寺蜜璃はある悩みにより、個性の1つでもある食欲がなくなってしまいます。しかし、しのぶに聞かれ、打ち明けることで背中を押されて解決する2人の信頼関係が凄く素敵です。
そして伊黒小芭内と甘露寺蜜璃の関係もいいですね!!原作で2人の最期を見てしまうと悲しいですが、きっと来世はすべての願いは叶うでしょう^^
第3話「甘露寺蜜璃の隠し事」あらすじ②
甘露寺蜜璃の封印の元
「ふぅ」
夜の警備を終えた甘露寺蜜璃は、燦燦と降り注ぐ太陽の日を浴びながら、ひどく重たい体を引きずるように街なかを歩いていた。
行きつけの飯屋に入り、天丼と盛り蕎麦、それに焼き魚とご飯と味噌汁を注文する。
朝から食べるにはかなり多いような気もするが、いつもの蜜璃からすれば、十分の一ほどの量だ。
ほどなく運ばれてきたお茶をぼんやりとすする。
また一つ、ため息がもれた。
あれから懸命に自分を律し、誰彼構わず浮わついた想いを抱かぬようにしている。
端的に言えば恋心を封印しているのだ。
添い遂げられる殿方を見つけようという邪な入隊理由を返上すべく、日々ときめきを禁じて任務に当たっている。
だが、そんな彼女をあざ笑うかのように、甘露寺蜜璃の心をときめかせることばかりが次から次へと起こるのだ。
どうしてなのかしら?こんな時に限って。
あまりのタイミングの悪さに泣きたくなってくる。
とりわけ、先の柱合会議が最悪だった。
雨宿りの先で偶然一緒になった炎柱・煉獄杏寿郎は「風邪を引くぞ!これを羽織れ!!甘露寺!」と自身の羽織を羽織らせてくれるし。
岩柱・悲鳴嶋行冥が、こっそり「南無。ネコ可愛い、、、」と仔猫を抱っこしている存外に愛らしい姿を目撃してしまうし。
風柱・不死川実弥が捨て犬らしき仔犬にこっそり餌をやっているところに遭遇してしまうし。
縁側でうたた寝していた水柱・富岡義勇が、ガクンとなった姿を見てしまうし。
宇随天元には、ふらふらして転びそうになったところを「危ねえな。地味に転んでんじゃねえよ」
と抱き止められるし。
伊黒小芭内は、新しく出来たといううどん屋に誘ってくれた。
思わず、キュン、、、と高鳴りそうになる胸を抑えるだけでも、げっそりしてしまった甘露寺蜜璃である。
挙句。。。
「蜜璃、何か心配なことでもあるんじゃないのかい?私で良かったら、話してくれないか?」
お館様にまでご心配をおかけしちゃうし、、、帰り際に無一郎君が呼び止めてくれたのに、走って逃げちゃうし。
最低だ。
しのぶに至っては、緊張しすぎて顔を見ることさえできなかった。
何やってるんだろう?私。
極めつけは、十二鬼月でもない相手に傷を負わされてしまった。
がっくりと肩を落とした蜜璃は、お運びの女性が持ってきてくれた天丼をもそもそと口へ運んだ。
これで本当にいいのかな?
ぼんやり考えていると、箸でつまみ上げたはずの天麩羅が、ポロリと丼の中に零れ落ちた。
丼の中には、まだ三分の二以上の米が残っている。
お腹は減っているはずなのに、食べたいという気持ちがわいてこなかった。
それどころか、何を食べても砂を噛んでいるようで美味しくない。
こんなことは、生まれて初めてのお見合いが見事に破談して以来だ。
「甘露寺さんは普通の人と同じ体型で、八倍の筋肉があるんです。つまり筋肉の密度が高いんです」
そう教えてくれたのは、他でもないしのぶだ。
「ですから、いっぱい食べないとダメですよ。筋肉の多い人は基礎代謝が高いんです。少なくとも人の八倍は召し上がってください」
「でも、女の子なのに、、、そんなにいっぱい食べたら、その、気持ち悪くない?嫌われないかな」
「甘露寺さんに必要な栄養を摂るなという方と、無理して一緒にいることはないですよ。そういう奴はこうすればいいんです。」
そう言って、愛らしい笑顔のまま、ここにいない相手をぐーで殴る真似をしてみせてくれた。
「ねぇ」
「しのぶちゃんたら、、、」
その言葉と笑顔にどれだけ救われたか。
甘露寺蜜璃を心配する伊黒小芭内
しのぶと話した数日後、伊黒と食事に行った。
ビクビクしながら食べたいものを頼む。
柱の中でも最も小食な彼は、お茶とほんの少しの食事をとるだけだったが、蜜璃の大食を咎めなかった。
むしろ「これも食え」と更に注文してくれた。
露出の多い隊服を恥ずかしく思いながら、しのぶのように縫製係の前で焼き捨てることも出来ずにいる蜜璃に、恩着せがましいことは何も言わず、無造作に縞々の長い靴下を差し出してくれたのも彼だ。
「甘露寺、やっぱり、ここにいたのか」
聞き覚えのある声に驚いて顔を上げると、今まさに思い浮かべていた伊黒の姿があった。
それに仰天する。
「い、伊黒さん!?どうして!?」
「少し話したいことがあって探していた」
伊黒は当然の如く蜜璃の前の席に座ると、何故か、ひどく眉をひそめた。
「甘露寺、どうしたんだ、それは、、、」
「えっ?」
思わずおたおたと手元の丼を見てしまう。
「私、ごはんこぼしてた?」
それとも、食べ方が汚かったのだろうか?
まさか、口の周りにお米が付いているとか、、、。
ドギマギする蜜璃だったが、伊黒が見咎めたのはまったく違う箇所だった。
その声が絶対零度よりもまだ低くなる。
「何故、お前の頬に傷がある」
「あ!これ?これは、昨日の警護の時に、、油断しちゃって」
おろおろと答えると、伊黒の両目がみるみる吊り上がった。
普段、どちらかと言えば冷静な同僚のこれほど険しい顔を見るのは初めてだった。
蜜璃が冷や汗をかく。
怒ってるんだわ。柱なのに、十二鬼月でもない鬼にこんな傷を負わされて、不甲斐ないって、、、
どうしよう、呆れられちゃったかしら、、、
ひたすら身を縮ませ小さくなっていると、伊黒がすくっと立ち上がった。
「どこだ」
「きゃっ」
反射的に蜜璃が肩をすくませる。
「その塵はどこにいる」
「えっ?」
「甘露寺の薔薇色の頬を傷物にした塵のことだ」
「え、、、あ、それなら、、、」
倒したと言いかける蜜璃の言葉を遮るように、伊黒が怨念のこもった声でうめく。
「その塵は万死に値する。俺が今から細切れになるまで斬り刻んでやる」
今にも店から出ていきそうな伊黒を、蜜璃が慌てて止める。
「ま、待って、伊黒さんっ!もう、いないの。えっと、、、ホラ、その時に私が頸を斬っちゃってるから。だから、、、」
「・・・・・」
伊黒はようやく我に返ったようで、その小柄な体から殺気を消すと、再び蜜璃の前の席にすとんと座った。
そして、片手で自分の額を覆うようにして「すまん」と言う。
続けてポツリとつぶやいた。
ひどく照れくさそうに、、
「俺としたことが、怒りで我を忘れた」
「・・・伊黒さん」
怒ったんじゃなかったんだ、、、
むしろ、それほど心配してくれたんだ、、、
じんわりと胸の奥が温まっていく。
思えば、伊黒は蜜璃が入隊した当初から優しかった。
何かにつけて気にかけてくれた。
そんな彼が「、、、甘露寺」と、どこかぎこちなく呼びかけてくる。
「何か悩み事でもあるんじゃないのか?」
「えっ、、」
「俺で良かったら話して欲しい」
「伊黒さん、、、」
「俺は甘露寺の力になりたい」
「!」
真摯な声色と真剣な眼差しに、胸の奥がキュンと盛大な音をたてかけた
その瞬間、蜜璃の脳裏に胡蝶しのぶの姿が浮かんだ。
「・・・っ!!ダメ!」「甘露寺?」
弾かれたように立ち上がった蜜璃を、伊黒が呆然と見上げる。
その両目を蜜璃はとても直視できなかった。
「わ、私、用事があったの思い出して、、、!ごめんなさい。もう行くね」
どうにかそれだけ言うと、店主に頼んだ品の代金を押し付け、転げるように店の外に飛び出した。
伊黒さん、ごめんなさい!ホントに、ごめんなさい。
折角、心配してきてくれたのに。
力になりたいとまで言ってくれたのに。
でも、それじゃあ、伊黒さんにキュンとしちゃうもの、、、
それでは相談に乗ってもらうどころか、ドツボにはまってしまう。
いつものように伊黒に頼るわけにはいかないのだ。
蜜璃は半ば逃げるように飯屋から離れた。
店から何軒も離れたところで、ようやく安堵する。
このことは自分一人でなんとかしなきゃ。
いつまでも、伊黒さんに頼ってちゃダメ。
両手で勢いよく自分の頬を叩く。
だが、頭を覆う霧は一向に晴れなかった。
そして、数日。